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「相続させる」相手が先に死亡してしまったら?

本日の最高裁判決は,平成23年2月22日の第三小法廷判決です。
事案は, AとBの二人の子がいる被相続人甲が,Aに遺産を「相続させる」遺言を作成したところ,甲が死亡する前にAが死亡したというものです。
Aには子供がおり(甲にとっては孫),民法887条2項には「被相続人の子が,相続の開始以前に死亡したとき(中略)は,その者の子がこれを代襲して相続人となる。」と規定されていますので,遺言の場合にもこの条文が適用されるかが争いとなりました。

 

(判決要旨)
遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定する「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情および遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはない。

 

結果は適用否定です。したがって,「相続させる」という遺言は,その相手方が先に死亡していた場合には,原則として無効になります。最高裁は理由をはっきりと述べていませんが,学説では「被相続人としては子供にあげる意思はあっても,その子(孫)にまであげるという意思が当然にあるわけではない」という理由が挙げられています。
遺言を作成する際には,「相続させる」相手Aが自分より先に亡くなった場合にはBに,さらにBも亡くなった場合にはCに・・・と書くこともできます。これからは注意が必要です。

最高裁判決

2011.07.05

抵当権設定登記後に賃借権を時効取得した者と買受人の優劣

 気になる最高裁判決を不定期でご紹介したいと思います。

 本日の最高裁判決は,平成23年1月21日第二小法廷判決です。

 事案は,やや簡略化していうと,競売によって土地を取得したXが借地人のYに対して建物の収去と土地の明渡しを求めた事案です。
Yの借地権は建物の登記をすることによって第三者に対抗できますが,建物登記より先に抵当権の登記があったようです。普通ならこれで勝敗が決するのですが,Yは抵当権設定登記から借地権の時効取得に必要な期間を経過したから,自分は登記がなくても借地権の取得をXに対抗できるのだと主張しました。このYの主張にはやや説明が必要です。
借地権は判例によって時効取得が認められています(民法163条,最高裁昭和43年10月8日判決)。時効取得した権利に登記が必要かどうかという問題については,次のような判例理論が確立しています。

 

① 時効完成時の所有者(時効で取得した権利と相容れない権利を持つ者)に対しては登記なくして時効取得を主張できる。
② 完成後にその土地を取得した者に対しては登記が必要
③ ②の場合でもその後改めて時効取得に必要な期間を経過した場合は登記不要


 本件では,Yは抵当権が設定された後も20年間地代を支払い,土地を利用してきたのだから,③の場合に該当すると言いたいわけです。

 

(判決要旨)
不動産につき賃借権を有する者がその対抗要件を具備しない間に、当該不動産に抵当権が設定されてその旨の登記がされた場合、上記の者は、上記登記後、賃借権の時効取得に必要とされる期間、当該不動産を継続的に用益したとしても、競売または公売により当該不動産を買い受けた者に対し、賃借権を時効により取得したと主張して、これを対抗することはできない。

 

 Yの主張は認められませんでした。
 理論的にはなかなか面白い問題を含んでいますが,実務的には妥当な結論だと思います。所有権を取得しても登記をしない者は保護されなくてもやむを得ない面もありますが,抵当権の場合,担保の目的である債権が満足していれば抵当権を実行する必要はないわけですので,抵当権設定登記のまま放置していても抵当権者には何ら落ち度ありとはいえません。その間に粛々と時効取得をねらって占有を継続している人がいても,そこで取得できるのは抵当権付きの所有権あるいは賃借権であって,真っ新の権利ではない,というのが判例の考え方なのです。

最高裁判決

2011.07.01

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