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パブリシティ権侵害の基準について(ピンクレディー事件)

今回の最高裁判決は,平成24年2月2日第一小法廷判決です。

事案は,昭和50年代にピンクレディーとして人気を博した原告が,自身の写真を無断で掲載した出版社を被告として,肖像権・パブリシティ権の侵害を理由として損害賠償を求めたというものです。出版社は,平成19年2月13日に発行した女性週刊誌において,当時流行していた「ピンクレディーの振り付けを利用したダイエット法」の記事を3ページにわたって掲載し,その中でピンクレディーを被写体とする合計14枚の白黒写真を使用しました。ピンクレディーの解散後も芸能人としての活動を続けている原告は,このような無断掲載はパブリシティ権の侵害であるとして,不法行為に基づく損害賠償として,写真1枚あたり9万円+弁護士費用の支払いを出版社に求めましたのです。

第1審の東京地裁判決(平成20年7月4日)も第2審の知財高裁判決(平成21年8月27日)も,理由はそれぞれ微妙に異なりますが,結論としては原告側が敗訴しました。そこで,原告が上告したのが今回の判決です。

最高裁も次のように述べて,原告の請求を棄却した原審を支持して,上告を棄却しました。

 

(平成24年2月2日最高裁判決要旨)

 

「人の氏名,肖像等(以下「肖像等」)は,個人の人格の象徴であるから,当該個人は,人格権に由来するものとして,これをみだりに利用されない権利を有すると解される。」

 

「肖像等は,商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり,このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」)は,肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから,上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。」

 

「肖像等を無断で使用する行為は,①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,③肖像等を商品等の広告として使用するなど,もっぱら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である。」

 

これまで競走馬のパブリシティについて判断された最高裁判決はありましたが(平成16年2月13日),芸能人や著名人など人のパブリシティ権について判断された最高裁判決は初めてではないかと思います。

判決においては,パブリシティ権は「人の人格権に由来する権利の一内容」であることを明確にした上,他の自由(特に表現の自由)との関係において,たびたび問題となるパブリシティ権の侵害の有無判断について一定の基準を示したことが評価されると思います。

パブリシティ権の侵害基準ではこれまで高裁以下の裁判所の判断が分かれており,ピンクレディー事件でも,1審の東京地裁判決では「その使用行為の目的,方法及び態様を全体的かつ客観的に考察して,その使用行為が当該芸能人等の顧客吸引力に着目し,専らその利用を目的とするものであるといえるか否かによって判断すベき」としたのに対して,2審の知財高裁判決では「著名人が自らの氏名・肖像を排他的に支配する権利と,表現の自由の保障ないしその社会的に著名な存在に至る過程で許容することが予定されていた負担との利益較量の問題として相関関係的にとらえる」べきとして,若干ニュアンスの異なる判断をしておりました。

 

最高裁判決は,①~③のパターンを挙げておりますが,それらは「もっぱら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とする(使用)」の具体例としてあげているものです。

「肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用(①)」は,ブロマイド,写真集などが典型でしょう。

「商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す(②)」は,ピンクレディーの肖像をキャラクターとしてあしらった商品がこれに該当します。

「肖像等を商品等の広告として使用(③)」というのはそのものずばりですね。

この三類型以外にも,「これらに準ずる程度に顧客吸引力の利用する目的が認められる場合」(金築誠志裁判官の補足意見)にはパブリシティ権の侵害になるわけです。

今回のケースでは,女性週刊誌の数ページにわたるグラビア記事で電車内の吊り広告などでもおそらく紹介され,週刊誌の発行部数に影響を与える目玉記事の一つですから,ピンクレディー側の言い分も分からなくはありません。

しかし,最高裁は,約200ページのうち3ページの使用であること,いずれも白黒写真であること,記事の中心はダイエット法の解説にあることなどを指摘して,上記の要件に照らして「もっぱら原告の肖像の有する顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえない」と判断しました。

「もっぱら」という言葉がついているので,パブリシティ権を持つ側にとっては厳しい判決と言えると思います。先ほどの金築裁判官の補足意見でもこの点を過度に厳密に解釈することは妥当ではないと述べていますが,限界事例になれば難しい問題も出てくるでしょう。例えば,今回のような雑誌掲載の事案でも,例えば本体の記事の一部ではなく「別冊ふろく」のような扱いでピンクレディーの振り付けを何ページも紹介されていたらどうでしょう。異なる判断になる可能性は十分にあると思います。

最高裁判決

2012.02.02

建物の建築業者らが第三者に対して責任を負う場合

 今回の最高裁判決は,平成23年7月21日第一小法廷判決です。
 事案は,賃貸用マンション一棟を購入した原告が,マンションにはベランダのひび割れなど多数の瑕疵(不具合)があるとして,施工業者や設計を担当した建築事務所などを訴えたものです。
 九州の事件ですが,この最高裁判決が出る前に,同じ事件で平成19年7月6日に最高裁判決が出ています。つまり,大分地裁で始まった裁判(1審)は,控訴された福岡高裁で判断され(2審),さらに上告されて,最高裁で福岡高裁に差し戻される内容の判決が下され(差戻前上告審),再度福岡高裁で判決が下され(差戻後原審),さらに上告されたのです。今回の最高裁判決も福岡高裁へ差し戻していますから,裁判はさらに続くわけです。ちなみに最初の地裁事件の事件番号は平成8年となっており,判決が出たのが平成15年2月ですから,地裁だけで約7年もかかっていることになります。建築訴訟は,極めて専門的で,瑕疵の存在の主張・立証も細かいため,一般に時間がかかるのですが,そうだとしても長すぎますね。

 

 話を戻しましょう。
 通常,建築訴訟では,注文主が原告となり,請負人である施工会社や建築事務所が被告となるケースが多く,それぞれの関係者の間には建築請負契約や設計・監理契約などの契約関係がありますので,原告としては契約に基づく瑕疵担保責任,債務不履行などの責任を追及すれば良いわけです。
 しかし,今回のケースの原告は,建物を購入した者であり,施工会社,建築事務所とは直接の契約関係がありません。そこで,一般の市民間の損害について規定する民法709条の不法行為に基づいて請求するほかないわけです。
 この点について,最初の福岡高裁判決(平成16年12月16日)は,「建築物に瑕疵がある場合,当然に不法行為の成立が問題になるわけではなく,その違法性が強度である場合、例えば、請負人が注文者等の権利を積極的に侵害する意図で瑕疵を生じさせたという場合や、瑕疵の内容が建物の基礎や構造躯体に関わり、それによって建物の存立自体が危ぶまれ、社会公共的にみて許容しがたいような危険な建物が建てられた場合に限って、不法行為責任が成立する余地が出てくる」と判断して,不法行為成立の範囲を限定しました。
 これに対して1回目の最高裁判決は次のように判示しました。

 

(平成19年7月6日最高裁判決要旨)

 建物の建築に携わる設計者,施工者及び工事監理者(以下,併せて「設計・施工者等」という。)は,建物の建築に当たり,契約関係にない居住者等に対する関係でも,当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うと解するのが相当である。
 そして,設計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり,それにより居住者等の生命,身体又は財産が侵害された場合には,設計・施工者等は,不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り,これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負うというべきである。居住者等が当該建物の建築主からその譲渡を受けた者であっても異なるところはない。

 

 差し戻された福岡高裁では,最高裁判決がいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」があるかどうかが改めて審理されましたが,平成21年02月06日付で下された判決は,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは「建物の瑕疵の中でも,居住者等の生命,身体又は財産に対する現実的な危険性を生じさせる瑕疵をいうものと解される」と判断した上,ベランダのひび割れなどの不具合があるとしても,これが原因で,居住者等の生命,身体又は財産に対する現実的な危険性が生じていたとは認められないと判断して原告の請求を認めませんでした。
 これに対して再度上告されて下された判決が今回の最高裁判決です。

 

(最高裁23年7月21日最高裁判決要旨)

 「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは,居住者等の生命,身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい,建物の瑕疵が,居住者等の生命,身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず,当該瑕疵の性質に鑑み,これを放置するといずれは居住者等の生命,身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には,当該瑕疵は,建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当する。
(中略)
 当該瑕疵を放置した場合に,鉄筋の腐食,劣化,コンクリートの耐力低下等を引き起こし,ひいては建物の全部又は一部の倒壊等に至る建物の構造耐力に関わる瑕疵はもとより,建物の構造耐力に関わらない瑕疵であっても,これを放置した場合に,例えば,外壁が剥落して通行人の上に落下したり,開口部,ベランダ,階段等の瑕疵により建物の利用者が転落したりするなどして人身被害につながる危険があるときや,漏水,有害物質の発生等により建物の利用者の健康や財産が損なわれる危険があるときには,建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当するが,建物の美観や居住者の居住環境の快適さを損なうにとどまる瑕疵は,これに該当しないものというべきである。

 

 最初の最高裁判決が出るまでは,建築の瑕疵の場合には不法行為責任を制限する立場が有力でした。なぜなら,建築の瑕疵の問題については,請負の瑕疵担保責任の規定があり,この規定自体が請負の特質に鑑みて債務不履行(民法415条)の特則として定められたものであることから,安易に不法行為責任を認めると,瑕疵担保責任制度の趣旨が没却されてしまうからです。例えば存続期間は民法637条,638条で細かく規定されていますが,不法行為責任では最大20年間の除斥期間内は存続しますので,瑕疵担保の規定が無意味になります。
 ところが,平成17年11月に発覚した構造計算書の偽造問題に端を発した建物の安全性に関する世論の高まりは,最高裁判決に少なからぬ影響を与えました。
 今回の最高裁判決は,平成19年7月6日判決の趣旨をさらに押し広げ,建物の安全性に関して,現在の危険のみならず将来の危険も含みうるとして施工業者,設計者,監理者らに重い責任を負わせる一方,建物の美観や居住者の居住環境の快適さを損なうにとどまる瑕疵はこれに該当しないと述べて,その範囲を限定しました。
 今後は,「これを放置するといずれは居住者等の生命,身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合」とは具体的にどういう場合を指すのか,危険発生の蓋然性の程度・立証はどうするか,「居住環境の快適さを損なう瑕疵」と「健康が損なわれる危険がある瑕疵」との限界をどこにおくかなどが問題になると思われます。また,不法行為を広く認める結果,施工引渡し時から相当期間経過後に提訴というケースが出てくるものと考えられ,瑕疵担保責任や品確法の期間制限との調和をどこに求めるか,経年劣化と施行時の瑕疵の区別,立証などの問題も生じてくるものと思われます。

最高裁判決

2011.07.26

更新料を支払う条項は消費者契約法違反か

 本日の最高裁判決は,本日,平成23年7月15日第二小法廷判決です。

 以前から大きな注目を集めていた分野について,最高裁判所がついに判断を下しました。

 事案は,Xが,Yから建物を,期間1年,賃料月額38,000円,更新するごとに更新料として2か月分の賃料を払うなどの約定で借り受けたところ,Xが更新料の約定は消費者契約法に違反するから支払った分を返せと,Xを相手に裁判を起こしたというものです。

 1審の京都地裁,2審の大阪高裁(H22.2.24)はXの主張を認め,更新料条項は消費者契約法10条に違反するとしました。

 ちなみに消費者契約法10条というのは「消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって,民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは,無効とする。」という条文です。

 大阪高裁は,更新料の法的性質について「趣旨不明瞭な,一種の贈与」と認定し,賃借人には更新料の金額を交渉する余地はなく,このような性質を知っていれば消費者である賃借人は支払いたくなかったはずだから,Yは一種の誤認状態におかれたまま契約を締結したものであると認定し,上記のように判断したのです。

 そこで出たのが最高裁判決です。

 

(判決要旨)

 更新料は,賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり,その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると,更新料は,一般に,賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有する

 (中略)

 賃貸借契約に一義的にかつ具体的に記載された更新料条項は,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらない

 

 われわれ関東の人間からすると,賃貸借契約の期間が1年で,その都度,賃料の2倍の更新料を支払うというのは,やや高額に過ぎる気がしないでもないですが,最高裁は,本件のケースでも「特段の事情」には該当しないと判断しました。最高裁が考えている「賃貸借契約が更新される期間等に照らし(更新料が)高額に過ぎる」場合(特段の事情)とは,いったいどういう場合を想定しているのか,やや疑問がないわけではありません。

 そうはいっても,更新料については,関西を中心に裁判所の判断が分かれており,実務でも不安定な状態が続いていたところでしたので,今回の最高裁判決が出されたことで,とりあえず多くの大家さん(消費者的立場の人も多いはず)はほっとしているでしょう。

 

最高裁判決

2011.07.15

契約締結段階の義務違反は債務不履行か

本日の最高裁判決は,平成23年4月22日第二小法廷判決です。
事案は,破綻した信用共同組合Yに,破綻の1年半前に500万円を出資したXが,出資の当時Yの理事は破綻の危険性があることを十分に知りながら,これを黙ってXに出資させたとして500万円の損害賠償などを求めたものです。
原審の大阪高裁は,Yが経営破綻の現実的な危険があることを説明しないまま出資を勧誘したことは,信義則上の説明義務違反であるとして,不法行為責任のみならず,出資契約上の付随義務違反として債務不履行も成立すると判断しました。
そこで,出たのが最高裁判決です。

 

(判決要旨) 契約の一方当事者は,契約締結に先立ち,信義則上の説明義務に違反して,契約締結の可否に関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合であっても,相手方が契約締結により被った損害につき債務不履行責任を負わない

 

契約締結段階での当事者の義務違反行為については,債務不履行なのか不法行為なのかは古くからある問題ですが,この点(法的性質の問題)に言及した最高裁判決は始めてです。
原審は,「およそ社会の中から特定の者を選んで契約関係に入ろうとする当事者が,社会の一般人に対する不法行為上の責任よりも一層強度の責任を課されることは,当然の事理」と述べて,無関係の市民間をも規律する不法行為のみならず出資契約上の付随義務違反(債務不履行)も成立するとしました。これまでは,このように考える学説も多かったと思います。
これに対して最高裁の理屈は,相手方の義務違反によって本来であれば締結するはずのなかった契約(本件では出資契約)から,契約締結段階の義務が付随的に発生するのはおかしい(背理だ)。一種のトートロジーというか,言われてみれば確かにそうです。
非常にアカデミックな問題ですが,不法行為責任の時効は原則として3年なのに対して債務不履行の場合は5年~10年になりますので,実務上は,どちらの責任が成立するかは重要です。

最高裁判決

2011.07.08

「相続させる」相手が先に死亡してしまったら?

本日の最高裁判決は,平成23年2月22日の第三小法廷判決です。
事案は, AとBの二人の子がいる被相続人甲が,Aに遺産を「相続させる」遺言を作成したところ,甲が死亡する前にAが死亡したというものです。
Aには子供がおり(甲にとっては孫),民法887条2項には「被相続人の子が,相続の開始以前に死亡したとき(中略)は,その者の子がこれを代襲して相続人となる。」と規定されていますので,遺言の場合にもこの条文が適用されるかが争いとなりました。

 

(判決要旨)
遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定する「相続させる」旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情および遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはない。

 

結果は適用否定です。したがって,「相続させる」という遺言は,その相手方が先に死亡していた場合には,原則として無効になります。最高裁は理由をはっきりと述べていませんが,学説では「被相続人としては子供にあげる意思はあっても,その子(孫)にまであげるという意思が当然にあるわけではない」という理由が挙げられています。
遺言を作成する際には,「相続させる」相手Aが自分より先に亡くなった場合にはBに,さらにBも亡くなった場合にはCに・・・と書くこともできます。これからは注意が必要です。

最高裁判決

2011.07.05

よこはま第一法律事務所

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